儚くも永遠の愛の旋律 第二十三話

 レオンの帰還

 レオンはアンナに逢うことだけを思って生きていた。レコードの売り上げの印税が入ると、それは相当な額になっていた。レオンの意思は固まった。

 ついに、レオンはフランクを訪ねた。フランクはレオンの最近の活躍を知っていたので、いつか自分のところにやって来て、妹の手術代を返しにくるだろうと思っていた。フランクはアンナに未練はあったが、今ではもう離婚もして、アンナは自由な身である以上、自分が何も言うものでもないと分かっていた。

 はたして、レオンはフランクの所へやってきた。そして手術代や生活費など全てを返済した。

「あなたが突然現れて、妹の手術代を払うと言われた時はとても驚きました。あなたにはとても申し訳ないことをしたと思っています。あなたがあの時に妹の手術代を払ってくださったお陰で、妹は命を取り留めました。今ではだいぶ元気になっています。あなたには感謝しています。」

「お礼を言われるものでもない。しかし、最近の君の活躍は素晴らしいと思っていた。これからも頑張ってくれたまえ。」

レオンはフランクに向かって頷いた。

「アンナはお元気ですか?」

フランクはレオンをじっと見つめ答えた。

「アンナとは離婚したよ。彼女は強情で。それから、妹さんの手術代の一件もアンナには知れてしまった。」

レオンはフランクの顔を見た。フランクは窓の外をじっと見つめているだけだった。

 レオンは以前住んでいたアパートへ向かった。坂道を登りながらますますくすんでしまったアパートを見上げた。

 もう自分の荷物は何も残ってはいないだろうとは思ったのだが、どうしてもここを訪ねたかった。

 

 3階まで一気に駆け上がった。軋むドアを開けた。するとどうしたことか、自分が住んでいた頃とまったく何も変わっていないではないか。それどころか、掃除までされている。仄かに甘い香りがしたような気がした。ピアノの上を見ると、アンナの歌の譜面が置かれている。アンナ。ここを訪れていたのか。それもごく最近まで。

 レオンはまだ事情が飲み込めずに、大家を訪ねた。

「はい、アンナさんは今2階に住んでおられますよ。あなたの部屋の家賃も頂戴しております。だからそのままにしてありますよ。」

「アンナが住んでる?いつから?」

「そうですね、もう3年近くになりますか。あなたが居られなくなってから半年後くらいからですから。」

レオンはお礼もそうそうに大家の家から立ち去った。

 レオンは2階の部屋のドアを叩いた。返事も無かったがアンナと呼びかけながらドアを開けた。アンナの部屋に入ると、本当にここに住んで自分を待っていてくれたことを実感した。アンナの帰りをここで待つことにしよう。レオンは心からアンナへの愛を感じ、喜びに打ち震えた。

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